2013年7月4日木曜日

プロジェクト・ファイナンスとは

先週一週間、プロジェクト・ファイナンスの研修に参加してきた。チュニジアの太陽が燦々と輝く、青い空のリゾート地にて、缶詰状態での研修である。

研修の講師は年配のイギリス人であった。既に70歳近くになっていると思われるが、プロジェクト・ファイナンスには30年間以上関与してきたという。その経歴を聞くところ、若い頃はイギリスでMBAを取得し、投資銀行や商業銀行に勤めたようだ。その後、欧州の某開発銀行の局長まで上り詰め、世界中のエネルギー、電力やインフラのプロジェクトに関与してきたという。謙虚な方であるが、明らかに只者ではない雰囲気が漂っていた。

ご参考までにプロジェクト・ファイナンスとは融資の一形態である。企業の信用力とは別に、プロジェクト自体から生じるキャッシュフローをもとに融資を行う手法である。その分野は資源、非鉄、インフラ等多岐にわたって活用されている。プロジェクト・ファイナンスは10年を超えるような長期の案件が多く、スポンサー(株主)、レンダー、EPCコントラクター、オフテーカー、アドバイザー(リーガル、テクニカル)等、国境を越えて様々な関係者が集まり、プロジェクトを構築していく。

研修はプロジェクトのリスク、キャシュフロー分析、ストラクチャー構築、PPP(パブリック・プライベート・パートナーシップ)等に関するものであったが、その研修内容そのものよりも、講師が話す過去の歴史やプロジェクトの事例が興味深かった。その例は80年代のサッチャー時代の『ユーロトンネル』に始まり、ソ連崩壊から10年経って実現した『バクー・トビリシ・ジェイハン(BTC)パイプライン』 、カタールの『ラスラファンLNG』、チリの『エスペランサ鉱山』等々であった。

これらの案件は日本の企業も参加しており、かつて勤めていた商社の隣の本部にて事業投資していた事を思い出した。その頃は各商社が大々的にリストラを行った90年代後半の少し前の話である。商社マンにとっては夢のある時代であった。

研修は、その他、アフリカのIPP(独立系発電事業者)の歴史や、2000年前半に米国のIPP事業者が世界中で活躍していた話題等で満載であった。AESやSithe等の懐かしいIPP事業者の案件も紹介されていた。ちなみに、2000年前半は米国エネルギー会社が軒並み倒産する時期であり、アフリカの電力事業の主役も米国勢から欧州勢に移行している。

研修は1週間の缶詰状態なので、参加者と昼飯も晩飯も一緒である。当然、講師とも話をすることになる。そのイギリス人の講師によると、多くの日本企業とも働いたことがあり、私のかつて勤めていた商社とも取引を行っていたという。また、私が一時期所属した米エネルギー会社とも商談をおこなったという。その講師の懐かしそうに話をしていた顔が印象的であった。

その米エネルギー会社にはレベッカ・マークという女性の副社長がいたが、その講師はレベッカと会ったことがあるという。レベッカは世界中の電力事業を立ち上げ、資産を買い上げた豪腕で知られた女性である。レベッカは私にとって突き詰めると上司にあたった人であるが、当時は雲の上の存在であった。

その講師によると、かつてサウジアラビアのIPP案件があったが、スポンサー(株主)がつかず、その案件は暗礁に乗り上げていたという。しかし、サウジ政府も含めて関係者が会議を実施している際、レベッカがアメリカから駆け付け、即プロジェクトの関与を約束したという。本来であれば、サウジの関係者は救世主に対して感謝をするべきであるが、レベッカの提案は拒否されたという。理由は何故か。レベッカは女性であり、しかも、その高圧な態度と、その服装がイスラム教徒であるサウジ関係者の反感を買ったそうだ。その講師はその会議の一部始終を見ていたという。

プロジェクト・ファイナンスとは融資の一形態であるが、その手法を通して、様々な関係者が国境を越えて出会う。それぞれの立場は違うが目的はプロジェクトが完成し、無事に運用が行われ、資金を回収することである。そこには、長年かけてプロジェクトを構築した先人たちの努力とドラマがある。先週はプロジェクト・ファイナンスの歴史を垣間見た一週間であった。

2 件のコメント:

  1. はじめまして。大変興味深く拝読させていただきました。
    私は欧州某国でMBAを学び、今が他の欧州内にて投資案件のコンサルティングなどを自営で行ってます。
    ですが、このブログにたどり着いたきっかけはチュニジア人女性と結婚するかもしれないので、チュニジアの結婚について検索したことでした(笑)。
    8月にはチュニスに行く予定です。これからもブログを楽しみにしてます。

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  2. チュニジア人の奥様と幸せになることをお祈りしております。

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