2013年3月3日日曜日

チュニジアの治安について

2月5日にショクリ・ベルイード氏は、チュニジアの有名なテレビ番組に出演した。番組において、彼は、自らが指揮する「民主愛国主義運動党(PPDU)」や、他の野党、そして彼自身が政治的な暴力の脅威に晒されていることを訴えたという。そして、Le Kefという町において、イスラム過激派がPPDUの集会を襲った際には、警察がそれらの動きを止めることをせず、黙認した事を暴露した。テレビ番組では、非難の矛先を現政権に向けたと言われている。

翌日2月6日の朝8:00頃、ショクリ・ベルイード氏は暗殺された。現在、複数のメディアによると、急進的な宗教グループに所属する4人の容疑者が逮捕され、取調べを受けているという。一人は殺人を認めたと言われているが、詳細は明らかになっていない。

現在、昨年の『アメリカ大使館襲撃事件』や、先月の『ショクリ・ベルイード氏暗殺』をきっかけとして、チュニジア国民は、与党の治安部隊や警察に対する管理能力に対して疑問を感じ始めている。革命前のベンアリ政権時は、治安部隊は警察の内部組織として機能し、同政権は治安部隊を完全に掌握していたが、現在の政権は、革命後、治安部隊の改革に着手しておらず、その管理能力が疑われている。


今後、治安の悪化が心配されるが、実際にチュニジアの治安は、他国と比べてどの程度悪いのであろうか。また、革命前と革命後を比較して、どの程度治安が悪化したのであろうか。統計的な数値を見ながら考察してみたい。

少しデータが古いが、UNODC(国連薬物犯罪事務所)の他国と比較できる最新の統計によると、2002年の『殺人(事故は除く)』はチュニジアにおいて119件(未遂を含むと265件)であり、事故件数を人口の10万人分で割ったインデックスは1.2である。これは同年の米国のインデックス5.6(16千件)と比べると遥かに低く、ドイツの1.1(0.9千件)とほぼ同じレベルである。ちなみに日本のインデックスは0.6(0.7千件)であり、日本は先進国の中でも最も殺人率が低い国の一つである。

『強盗』のインデックスはチュニジアの11.3(1.1千件)に対して、日本は5.5(7千件)、ドイツは71.4(59千件)、米国は145.9(421千件)である。米国、ドイツと比べて、チュニジアの強盗率の低さがわかる。


『窃盗』のインデックスはチュニジアの263(25.69千件)に対して、日本は1,870(2,377千件)、ドイツは3,817(3,149千件)、米国は2,446(7,053千件)であるという。チュニジアの窃盗の突出した低さには驚かされる。ちなみにチュニジアは窃盗の25.69千件の内、7.5千件が『重い窃盗』であり、それ以外の数値は万引き等の軽い窃盗であると思われる。

これらの数字はベンアリ政権崩壊の8年前の統計であるが、革命前までは大きなトレンドは変わらないと推測する。革命前のチュニジアが先進国と比較しても如何に安全であるかがわかる。それでは、革命後、治安がどの程度悪化したのであろうか。


2012年の2月の『Kapitalis』の記事によると、同月に内務省のAli Laârayedh大臣(現在の首相)が公表した革命後約1年間の犯罪の数値は殺人(未遂を含む)が約200件、強盗が約1100、窃盗が約8千件であったという。窃盗の数はおそらく『重い窃盗』しか発表していないと思われる。

これを見てもわかる通り、2002年のUNODCの統計と比較しても、窃盗の犯罪の数値は
若干増えている程度であり、強盗は2002年とほぼ同じ数値である。殺人(未遂を含む)に限っては数値は減っている。内務省が発表した数値は、革命後の社会が不安定になっている中での統計である。一般的には治安が悪化していると言われている中で、革命後の犯罪の結果が予想よりも低いのは意外であった。

先日、タンザニア人の同僚とチュニジアの治安に関する話になった。彼曰く、東アフリカで治安の良いタンザニアと比較しても、チュニジアの治安の良さは格別であると言っていた。その理由は革命後の現在でも、殺人、強盗等の重犯罪が少ないことを述べていた。チュニジアは他の途上国と比較すれば依然安全な国であるといえるであろう。

直近の1年間のデータがないが、徐々に治安が悪化している可能性は大いにある。あくまで印象であるが、最近、空き巣やひったくりは増えていると思われる。身近な友人や知り合いでも、この半年間で空き巣やひったくの被害にあったいう話を聞く。しかし、この1年数か月間、チュニジアに住んでみた印象は、デモが発展して暴力に発展することはあったが、日常の生活においては、チュニジアは決して殺人や強盗は多くはないという印象である。
 
私自身の経験では、初めてチュニジアに来た革命の直後の2011年5月には、スーツケース全てを盗まれたことはあったが、移住後1年数ヶ月間は、デモ時以外は、あまり身の危険を感じたことはない。週末の夜の飲んだ後に、普通に町で歩いたりしているが、少なくても、私に強盗を働きかけたり、喧嘩をしかけたりする者にあったことがない。

そういえば、1回だけ、以前、ダウンタウンで歩いていた時に、私が東洋人なので、ふざけてカンフーか空手の物真似をし続けた若い輩が数人いて、あまりにもしつこかったので、こちらも切れて、『俺は空手の黒帯だ。文句があるなら掛かって来い』と凄んだところ、『冗談だ。悪かった。』と喧嘩をするまでもなく謝ってきた。ちなみに、私は10代の頃は、ラグビーやオーストラリアンフットボールをやっていたので、多少の体力の自身はあるが、空手の黒帯は嘘である。また、中年になった40代の今では、決して強そうにも見えないと思う。

この話を妻にしたら、『歳なんだから、強がるのはやめて。本当に痛い目に会うわよ。』とたしなめられた。確かに、これが治安が悪い国だったら身ぐるみ剥がされてたかもしれない。先日、同僚とサッカーをした時にも、かつてのイメージとはまったく異なり、思うように走れず呼吸困難に陥った。これからは自分の実力を客観的に見るようにしなければならない。

今後、政治の行方によっては予断は許されない。治安が悪化する要因が拡大しているのは事実である。日本では、チュニジアも含めて『北アフリカ=危険地帯』というイメージが植え付けられているようであるが、しかし、普段の生活はそれなりに平穏であることをお知らせする。


参考資料
http://www.kapitalis.com/politique/national/8287-tunisienne-la-revolution-aggrave
http://www-rohan.sdsu.edu/faculty/rwinslow/africa/tunisia.html
http://www.unodc.org/pdf/crime/eighthsurvey/8sc.pdf

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