2013年4月14日日曜日

アフリカがサッチャーから学ぶこと

先週の月曜日(4月8日)、英国の『鉄の女』と呼ばれた元首相のマーガレット・サッチャーが脳卒中により他界した。享年87歳であった。

サッチャー元首相の功績については様々な議論が行われていると思われるが、私は、英国の経済を立て直した民営化や民活導入の手法に対して称賛を贈りたい。ここで、その功績について振り返りたいと思う。

英国は以前は『ゆりかごから墓場まで』と言われた手厚い福祉政策で有名な国であった。しかし、70年代に入ると企業の競争力が低下し、インフレに悩まされるようになる。低迷から脱出できない状況は『英国病』ともいわれた。

79年に首相に就任したサッチャー氏は、50社にも及ぶ国営企業を数回の段階に分けて民営化した。その中には、ブリティッシュ・ペトロリアム(BP)、ケーブル・アンド・ワイヤレス(C&W)、ブリティッシュ・テレコム(BT)、ブリティッシュ・エアウェイズ(BA)が含まれている。

その基本的な思想は、国営企業は民間企業と競合すべきではないというものであった。また、当時赤字に苦しんでいた財政を正常化する為には民営化による株式売却と、民営化による税収の増大が欠かせなかった。1981年当時、英国の公共部門全体がGDPに占める割合は3割にも及んでいたという。更に、サッチャーは規制緩和や金融システムの改革を強いリーダーシップで断行していった。長期的な観点に立てば、サッチャーの改革はイギリスの経済を活性化し、企業を強化したのは疑いもない事実であろう。

ちなみに、私は94年、2004年、そして昨年の2012年にロンドンに訪問した事があるが、94年に受けた『退屈な街ロンドン』の印象が、毎回訪問する度に変貌し、洗練していったのには強い感動を覚えている。正直、94年のパブル経済を経た東京からロンドンに訪問した際には、ロンドンの街が地味に感じた。その後、町の雰囲気や、人々のファッションが激変したという印象を持っている。これは、80年代にサッチャーが金融システムを改革したことによって、後ににシティが活性し、世界中の投資家がロンドンに集まり、国際都市に変貌したことに他ならない。当初はロンドンでは外食しても美味しい店がなかったが、昨年、訪問した際は移民が増えて、美味しいレストランやチェーン店が多くなっていたのには感激した。

また、上述した企業が復活し、海外展開を行ったのは多くの人が知るところである。日本においては、電電公社の民営化を行った際に規制緩和の一環として発足した国際電話会社IDCに対してC&Wが出資している。また、BTがボーダフォン(現ソフトバンク)のブランドで日本の携帯電話事業を行っていたのは記憶に新しい。

更に、サッチャー政権はイギリスとフランスを海底トンネルで結ぶ『ユーロトンネル』を民間資金を活用する『プロジェクトファイナンス』にて推進した。その事業費は総額で60億英ポンド(出資金10億ポンド、借入金50億ポンド)に昇ったという。当時のフランスのカウンターパートはミッテラン大統領であった。更に、実際に導入されたのはメージャー政権になってからであるが、サッチャー政権の『小さな政府』の意向を受けて、PFI(Project Finance Inititive)という方式が導入された。PFIとは、公共施設が必要な場合に、公共機関が直接施設を整備せずに、民間資金を利用して民間に施設整備と公共サービスの提供をゆだねる手法である。

これらのイギリスの民営化や民間資金導入の方式は30年近くたった現在でも、世界中で模倣されている。日本では80年代に中曽根政権にて日本専売公社(現JT)、日本国有鉄道(現JR)、および日本電信電話公社(現NTT)が民営化された。中曽根元首相のリーダーシップのもとで、土光敏夫、瀬島龍三という昭和を代表するブレーンと共に、当時労働組合が強かった国営企業を民営化したのは称賛に値する出来事であろう。しかし、その後の日本道路公団や郵政改革は道半ばで止まってしまったという印象を受ける。日本国内ではなかなか進まないが、PFIやプロジェクトファイナンスの導入のコンセプトも議論されて久しい。

また、アフリカのおいては、今日ほど、サッチャーが断行した民間セクターの活性化や、民間資金導入が必要な時期はないのではなかろうか。

現在、サブサハラ諸国ではインフラの整備が急務であり、特に電力セクターが深刻な問題である。サブサハラの48か国(人口約8億人)の発電能力はスペイン(人口45百万人)と同等に過ぎない。又、電力の使用量は1人当たり124KWhで、100Wの電球を1日3時間しか利用できない計算になる。道路も問題である。アフリカは広大な土地を有する大陸であるが、人口の1/3のみが1年間利用できる舗装道路の2Km以内に住んでいるという。対照的に他の途上国の平均は人口の2/3が舗装道路の2Km以内に住んでおり、いかにアフリカの道路の整備が遅れているかがわかる。

『Africa Infrastructure Country Diagnostic』というレポートによると、サブサハラ諸国においては、必要なインフラ(2000年代の中国のインフラ水準)を構築する為には継続的に年間930億ドルの支出が必要となると言われている。これはサブサハラ諸国のGDPの15%に値する金額である。しかし、現在インフラに支出されている金額は450億ドルにすぎない。毎年、約480億ドルの資金ギャップが生じている。

この資金ギャップを埋めるのには、国の財政支出や2か国間等の援助には限界がある。解決方法は民間セクターの資金をもっと導入するしかない。今後アフリカが益々の経済成長を行うためには、プロジェクトファイナンスや、更にPFIやPPP(官民パートナーシップ)等のスキームを利用して、民間のノウハウや資金の導入をすることが求められている。

マーガレット・サッチャーという冷戦時代を代表する偉大な政治家が世から去っていった。アフリカは偉大な先人たちが残していったノウハウを活用し、より良い大陸となるべく更なる知恵を絞らなければいけないのであろう。

日本ではTICADVの開催を前に、アフリカに関する報道が増えてきていると聞いている。しかし、アフリカ側から見ると、日本の対アフリカのODAの援助資金は増大しているものの、日本の企業や投資家のプレゼンスはあまり目立っていない。アフリカは成長率が高い魅力的な市場である。是非、日本の企業にはアフリカに対する更なる関与をお願いしたい。

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