2013年4月20日土曜日

習近平政権によるアフリカ外交

3月14日、中国の全国人民代表大会(全人代)で、習近平は国家主席に選出された。世界中が習近平の外交方針に対して関心を集める中、初の外遊先としてロシアと共にアフリカを選び、アフリカを重視する姿勢を示したのは注目に値する。

習近平のアフリカ歴訪は同月の24日にタンザニアから始まり、南アフリカのダーバンで開催されたBRICSサミットへの出席を経て、30日に最後の訪問地であるコンゴ共和国まで続いた。

タンザニアのダルエスサーラムで演説した習近平は『中国はこれまで通り、アフリカが必要な援助を政治的な要求なしで継続し、中国とアフリカは、対等な関係として友好を深めていく』と発言したという。習近平政権は、前胡錦濤政権のアフリカ支援を継続する方針を示したと共に、欧米による民主化等の政治的な要求を引き換えにする方針とは異なることを強調したようである。

さらに南アフリカで開催されたBRICSサミットにて、習近平政権は他のBICS諸国のブラジル、ロシア、インド、南アフリカと共に『BRICS開発銀行』を発足させることを発表した。同開発銀行を通して、アフリカ諸国のインフラ整備やエネルギー開発等を支援していくようだ。

さて、習近平体制のアフリカ外交であるが、基本的には胡錦濤政権の方針を継続する姿勢を示したようであるが、今後、どのように変化する可能性があるのだろうか。考察してみたい。



中国のアフリカに対する直接投資
まず中国のアフリカに対する資源外交であるが、引き続きアフリカにおいて資源開発を加速させるのは間違いないであろう。中国のアフリカに対する直接投資は更に増えていくと思われる。(直接投資のトレンドにつき右記の図を参照。)

中国は13億人の民を背景とした経済成長を維持する為には資源の確保が欠かせない。中国にとっては効率的に資源を確保する事が最も国益に沿っており、習近平が外遊中に『必要な援助を政治的な要求なしで行う』と発言した外交姿勢にはそのような背景がある為であろう。極端に言えば、中国がアフリカに対して行っていることは『敵を倒すには油断させ、敵から奪うのにはまず与えよ』という孫子の兵法と同じ選択だと言う者もいるようだ。

また、『BRICS開発銀行』を設立させたのも、インフラ等の中国の製品を輸出する目的と共に、エネルギー開発、鉱山開発を容易にする目的もあると思われる。


GDP対比中国の対アフリカの輸出入トレンド
(青が輸出、赤が輸入)
現在、中国は資源豊かなアフリカから石油や鉱物資源など多くの原材料を輸入している。2012年のアフリカから中国への輸入総額は1130億ドルで、この10年で20倍に増加したという。(輸入の過去のトレンドにつき左記の図を参照。)未だに中国の一人当たりの電力の使用量は日本の一人当たりの約半分程度であり、更なる経済成長によって資源の消費量が増えるのは間違いない。


次に注目したいのは、中国がアフリカの市場を重視している点である。今回、訪問団には多くの中国企業も同行し、インフラ整備などの大型商談がまとまったといわれている。以前、『アフリカ大陸のトップ企業』というテーマで紹介したが、アフリカ大陸全体のGDP(2011年)は1.8兆ドルであり、仮にアフリカが一つの国であると世界で9番目の経済規模になる。これはロシアやインドを上回る規模である。上記の中国の輸出のトレンドでも示されている通り、アフリカは市場としての魅力も増しているということであろう。

更に注目したいのは、習近平外交がアフリカ大陸を政治的に重視している点である。今回の訪問にあたり、中国のメディアは、アフリカ諸国との良好な協調関係を全面的に強調した報道で埋め尽くされたという。国連の安保理の常任理事国である中国は、国連に加盟する50カ国以上のアフリカ諸国の影響力を熟知しており、今回の訪問で支持を集めて国連における主導権強化につなげ、欧米主導の世界秩序に対抗していく狙いもあるとみられる。

過去に中国がこのアフリカ諸国の影響力を駆使した例がある。2005年に国連の安保理改革案が議論された際には、中国はアフリカ連合(AU)加盟国に対して日本の常任理事国を阻止するように働きかけた。安保理の改革は日本とドイツ、ブラジル、インドの他にアフリカの2か国を常任理事国に加えるというものであったが、中国に支援されていたジンバブエのムカベ大統領等の反対もあってAUによって拒否された。2005年にAUがこの改革案を受け入れていたら、日本はおそらく安保理の常任理事国になっていただろう。

日本がアフリカ票の取り纏めに失敗した背景には、長年アフリカに多額のODAを供与していた為、油断があった為であろう。結局、中国の狡猾な外交によって足元をすくわれたということである。ここは中国を責めるよりも、日本の不甲斐なさを反省すべきではなかろうか。この事例でも判る通り、中国はアフリカの政治的なレバレッジ方法を理解しており、その傾向は習近平政権において更に強まるであろう。

最後に強調したいのは習近平政権の国内における基盤の脆弱さである。習近平は中国共産党において第5代目の国家主席である。初代の毛沢東と2代目の鄧小平は共産革命を成功させた軍人で絶対的なカリスマがあった。3代目の江沢民と4代目の胡錦濤は鄧小平の指名を受けており、権力の正統性があり、党内でも存在を脅かす存在はいなかった。しかし、習近平は江沢民派と胡錦濤派の権力闘争間で生まれた産物で、胡錦濤が妥協したダークホース的な存在であり、党内の求心力が弱いと言われている。

党内で基盤の弱い習近平は軍に頼っているといわれている。妻の彭麗媛夫人は人気歌手でありながらも、軍の現役の少将でもある。今後、軍の膨張する可能性は大いにあるだろう。国内問題が山積している中で、国内問題を外交に転じて、日本や南シナ海の国々や欧米の秩序に対して対峙してくる可能性も充分ある。

国際社会において議論が行われたり、世論が構築される際に、国連で最大の加盟国を持つアフリカとの関係が一つの鍵になるかもしれない。日本も中国のように狡猾にアフリカとの外交を進めないと、2005年に安保理の改革案で失敗したように、更なる国益を失うかもしれない。母国との関係において台頭する隣国の状況をアフリカから心配して見ている。

追記:このサイトはハッキングされたようだ。何故か上記の『中国の対アフリカ直接投資のグラフ』が私の友人の結婚式の写真にすり替えられたいた。恐ろしい出来事である。(2013年7月4日)

【参考資料】
『2012年の論点100』文藝春秋
『日本人のためのアフリカ入門』、白戸圭一
『アフリカを食い荒らす中国』、河出書房新社
http://mainichi.jp/select/news/20130325k0000m030078000c.html
http://www.newsweekjapan.jp/stories/business/2013/03/post-2884.php
http://www.epochtimes.jp/jp/2013/02/html/d41408.html
http://en.wikipedia.org/wiki/List_of_countries_by_electricity_consumption
http://mainichi.jp/select/news/20130325k0000m030078000c.html
http://newscastmedia.com/blog/2013/03/28/chinas-marriage-with-africa-is-a-lifetime-relationship/
http://en.wikipedia.org/wiki/Africa%E2%80%93China_economic_relations
http://www.oecd.org/investment/investmentfordevelopment/41792683.pdf

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