2013年4月7日日曜日

ローマ帝国の水道プロジェクト(アントニヌス、マルガ、ザグアン)

ローマ帝国支配時に建設された『アントニヌスの共同浴場』の遺跡は緑に囲まれたカルタゴの高級住宅街にある。その共同浴場全体の面積は3.5K㎡といわれているので如何に広大な施設であるかがわかる。

現在は円柱や土台の遺跡しか見れないが、共同浴場自体の全長は300Mにも及び、更衣室や、冷浴室(フリギタリウム)、温水プール、垢すり室、高温浴室(カリダリウム)、サウナ、野外プールがあったという。更に、パラエストラと呼ばれる柱で囲まれた中庭の運動場や、運動機器があるジムや、図書館まであったというのは驚きである。まさに東京ドームのラクーア顔負けの壮大な施設であったようだ。

ローマ人にとって風呂は重要な生活様式であったようだ。多くのローマ人が公共浴場において多大な時間を過ごしたという。ローマ人は午前中には仕事を終え、午後の早い時間に公共浴場に向かい、数時間を過ごすというのが習慣であったようだ。


アントニウス浴場の遺跡
(柱の場所がフリギダリウム)
既にこの遺跡には何度も訪問したが、地中海の海を羨望できるロケーションは最高である。ローマ人にとって公共浴場で過ごすことは体を清めることのみならず、そこで楽しむ娯楽的な要素が大きかったようだ。フレスコ画で装飾された壁や床、彫刻で飾られた柱、吹き抜けの天井、溢れ出る熱気システム、透明な水のプールはローマ人を魅了したに違いない。入浴者はコースの全てを堪能しても良いし、好きな浴室だけを選んでもよかったようだ。毎日何千人もの入浴者が訪問していたという。まさに、公共浴場とは、ローマ人にとって社交クラブの場であったようだ。

しかし、これだけの人が集まる浴場を運営するのは容易ではない。水を温めるために、蒸気を生成する為の燃料、薪、石炭が保存されており、大きなボイラー室もあったようだ。地下室で多くの奴隷が働かせられたのは想像がつく。また、この大量の水を確保する為に、水源から大量の水を運ぶインフラを構築する必要があった。

アントニヌスの共同浴場はその碑文によるとAD162年に完成したと言われているが、その水の供給を支えたのは『マルガ貯水場』である。マルガ貯水場の建設はAD130~131年にローマ帝国のアドリアン総督によって実施された水道プロジェクトの一環である。ローマ帝国が滅ばしたカルタゴは既に貯水等の水の技術を保有していたというが、ローマ人はそれを更に発展させたという。マルガ貯水場は最大で98千m3の水を貯水できる容量があったようだ。(詳細は過去のブログ『マルガ貯水場(カルタゴ)』を参照。)


ザグアン水道橋
ローマ帝国はザグアンの5か所の水源を1か所に纏め、132KMに及ぶ『ザグアン水道橋』を建設してマルガ貯水場まで水を運んだという。



先日、『ザグアン水道橋』、並びにその水源に位置するザグアンの『水の神殿(Temple des Eaux)』に訪問した。チュニスからケロアン方面に向かう途中で突然見える水道橋は壮大である。現在、残る部分は20KM程度であるらしいが、現在でも利用されている部分があるというのは驚きである。水道は僅かな高低差を利用して水がカルタゴまで運ばれるように設計されたというが、繊細な技術が要求されたに違いない。



水の神殿のイメージ図
水の神殿は前述したアドリアン総督がAD130にカルタゴへ水が確実に届くようにという思いを込めて、泉を奉ったものであるという。ザグアンの街は小高い山の上にあり、チュニス郊外から車で2時間弱の場所にあるが、まるで軽井沢に来たような感覚である。若干、気候もチュニスよりも涼しい感じがした。


水の神殿は水源である山に面して半円のテラスとなっていた。このテラスはかつては柱廊で囲まれており、ローマ神話の水の神であるネプチューンやギリシャ神話の女神のネレーイスが祀られていたという。説明文ではローマの貯水や水道の技術は紀元前4世紀にギリシャ文化から受け継ぎ、発展したものであるそうだ。


神殿手前の水道管
この水源から水道管を通じて近くの貯水池まで繫がり、その水が、132KMの水道橋を通じて、カルタゴに供給されたということになる。

ローマ人にとって水の供給は国家事項であり、パンの供給や公共の娯楽と同じく最重要項目であったようだ。従い、ローマ帝国にとって域内の住民に水を供給することは国家的な義務と感じていたようである。ローマ人は自国と同じ手法を北アフリカに持ち込み、カルタゴのシステムを発展させた事により、為政者としての地位を獲得したようである。

20世紀近くも前にこれだけのインフラを構築するローマ帝国の国家力に感嘆せざるを得ない。まさに『ローマ帝国恐るべし』である。

【参考資料】
http://en.wikipedia.org/wiki/Roman_Baths_(Bath)
http://www.romanbaths.co.uk/
http://www.roman-empire.net/society/soc-games.html
http://ancientcarthage.wikispaces.com/Water+Supply+in+Roman+Carthage
http://www.jstor.org/discover/10.2307/641659?uid=3739176&uid=2129&uid=2&uid=70&uid=4&sid=21101863888713
http://en.wikipedia.org/wiki/Antonius_Pius
http://www.hydriaproject.net/en/the-water-management-in-the-region-of-tunis-through-history/water-works-ancient-carthage/
カルタゴ、ミニガイド

1 件のコメント:

  1. 毎回楽しみに見ています.
    文化,歴史,経済....幅広い射程に感心しています.

    私は2度目のチュニジアで,昨年10月に赴任し,エンナッスルに住んでいます.

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