2013年1月30日水曜日

チュニジアにおける補助金の行方


1月末の複数のメディアによると、チュニジアは IMFより、27.3億TND(約1600億円)のStand-By Arrangement(SBA)の資金援助を受けるという。このIMFによるSBAは経済危機に面している国に対して、金融安定と経済の持続性に必要な改革の実行を条件に、資金支援を提供するプログラムであるという。

ご参考までに、チュニジアのGDP(2012年)は459億ドル(約4.16兆円)、国家予算(2013年予定)は268億TND(約1.57兆円)である。ジャスミン革命後の2011年予算は食品や燃料の補助金を倍増したことが原因で、債務(対GDP比)が2010年の1.1%から3.7%に増大している。累積対外債務(2012年時)は232億ドル(2.31兆円)であるという。しかし、中央銀行の総裁によると、『チュニジアの累積対外債務(対GDP)は未だに50%程度であり、管理可能な範囲であると』と強気のコメントをしている。(1月26日付のLa Presseでも日本の債務(対GDP)の185%と比較すればまだまだ低いと記述されている。)

一般的に言われているのは、このIMFによる改革の方法は『小さな政府、歳出削減、食品、医療品、教育の補助金の削減、民営化、輸入関税の削減、市場開放、金融市場の開放』であるという。これらは市場開放をすることにより経済の効率性、成長への刺激、そして持続的な成長を目的としているようだ。今後、IMFをはじめとする海外債権者は、チュニジアを支援する代わりに、財政や税金の改革に様々な介入をしてくるであろう。予算全体の歳出の削減に関してはすぐには要求してこないだろうが、補助金の削減や、財政予算の分配方法の変更を求めてくると思われる。現在、チュニジアの補助金はGDPレベルで7%程度であり、内訳は4%が燃料向け、3%が食品他向けであるという。とても維持できる費用とは思えない。

チュニジアの指導者も、このような対外債権者に影響を受けてか、既に補助金の削減やその改革に関して言及し始めている。2012年11月26日付のAgence Tunisia PressによるとHamdi Jabali首相は2013年の国家予算(予定)に対して、富裕層に対する補助金を削減すると宣言している。また予算はインフラや地域開発、雇用増大に注力するという。金融大臣のSlim Besbesによると公共サービスにより新たに23,000人の雇用が創出されるそうだ。

最終的な2013年の国家予算の内訳は不明であるが、最近、巷でガソリンの補助金が削減されるという噂が流れている。現在のガソリン価格は1.43TND(83円)/㍑(1月27日付チュニスのガソリンスタンド価格)であるが、これは補助金を充てていることによって価格が下がっているそうだ。前述した如く、GDP4%に相当する額をガソリンを始めとした燃料に対する補助金に充てており、この補助金を撤廃すれば価格が倍になるという説もある。まずは10%~20%程度の値上げが近いうちにあるようだ。ご参考までに1月28日付米国のガソリンのリーテル価格は平均で3.357ドル/ガロン(80.45円/㍑)である。補助金をもってしても、既にチュニジアの価格の方がアメリカより高いのはチュニジアのエネルギー業界の非効率性にあると思われる。ご参考までにチュニジアはガソリン精錬所を一基しか保有しておらず、原油を海外に輸出して、国内需要53%のガソリンを海外から輸入している為である。

懸念されるのはインフレと一般層への影響である。今まで、チュニジアの燃料や食品に対する補助金はインフレの抑制に貢献してきた。ガソリンの補助金の撤廃は、既にインフレが発生しているチュニジアに追い打ちをかけないだろうか。ガソリンは富裕層の為だけではない。ガソリン価格は全ての基本的サービスの価格を上昇させる。学校や会社への通学・通勤、電気代、チュニジアの家庭における家計を圧迫する可能性がある。

政府にお願いしたいのは、現在、290ミリム(約17円)で食べられる美味しいバゲット(フランスパン)の補助金に対しては抜本的な改革は留意して欲しい。(この補助金を撤廃すればバゲットの価格は倍になると言われている。)これに手をつければ、間違いなく暴動が起こるであろう。庶民にとって死活問題であるからだ。補助金の舵取りは難しいことは承知しているが、チュニジア社会のラストリゾートは残して欲しい。

 (為替は1TND=58.59円、1USD=90.71円で計算)

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