2013年2月17日日曜日

チュニジアにおける知的所有権とは(衛星放送ビジネスモデル)

以前、『衛星放送とアラブの春』というテーマで、チュニジアにおいて、民衆が衛星放送をどのように視聴できる環境にあるのか紹介した。チュニジアにおいては、コンテンツの権利や知的所有権の概念が薄く、有料放送(DTH)というビジネスモデルは存在しない。巷で徘徊するテレビ業者が、スクランブル解除情報をセットトップボックス(STB)に挿入して、衛星放送を無料で視聴できるようにしている。

本日、その徘徊するテレビ業者(悪徳業者なので以下『親爺』と呼ぶ。)と、近所で話をする機会があったので、その手法についてもう少し詳しく聞いてみた。

その親爺によると、最近のSTBはインタ-ネット機能がついており、ソフトウェアー業者のサーバーから、スクランブル解除情報を送り続ける事によって、有料チャンネルを無料で見れる環境を構築しているという。私はてっきり『偽CASカード』をセットボックスに挿入すると思い込んでいたが、少し、理解が違ったようである。CASカードなしで、有料放送を無料で見れるという。チュニジアの悪徳ビジネスは、昨年、日本で問題になった『不正改造B-CASカード』よりもハイテクのようである。

親爺によると、そのスクランブル解除の権利を年間80TND(約4300円)で購入し、そのソフトウェア―業者のサーバーにインターネット接続をすれば1000程の番組を視聴できるという。ご参考までにそのネット機能が付いているSTBは『DreamBox』といい、そのハードウェアー価格は80TND(約4300円)程度であるようだ。番組権利者に対して支払がされているか確認したが、やはり、欧州のCanal+や、ItaliaSky等のDTH業者に対して、その権利金は一切支払われていないらしい。

その親爺の話を聞きながら、かなり悪質なビジネスであると思い、腹立たしい気持ちになった。しかし、現実問題として、チュニジアにおいてはDTHは存在せず、また摘発も行われていないことから、民衆も当たり前のように衛星放送を不正で視聴している。親爺曰く、大統領や首相、政党党首、警察等の本来、知的所有権を取り締まる人々も皆、衛星放送を無料で視聴しているとうそぶいていた。恐らく本当であろう。つまり、チュニジアでは番組権利者に支払っている人は一人もいないということである。事実、フランス系スーパーのカルフールでも、家電売り場にて液晶テレビを展示し、不正スクランブル解除した衛星放送を毎日垂れ流している。間接的に悪徳ビジネスを支援しているのだ。また、前述したスクランブル解除のソフトウェア―業者は、代理店制度のようなものを構築し、その親爺は代理店の一人であるという。闇市場のビジネスであるはずが、堂々と代理店と主張し、公然とビジネスをしているのである。

実際、私がチュンジアに1年以上住んで観察した感覚でも、チュニジアは、知的所有権という概念が非常に薄いという印象を受ける。ビジネスソフトウェアーアライアンス(BSA)という団体の調査では、2011年におけるチュニジアのソフトウェア-の74%が海賊版であるという。参考までに日本のその比率は21%である。

しかし私の感覚では、チュニジアの不正の比率はもっと高いのではと見ている。チュニジアにおいては、知所有権に関するあらゆるアイテムの違法コピーがまかり通っている。どの地域に行っても、CD&DVD店があるが、2TND(約100円)も払えば、音楽のCDアルバムが購入でき、最新の映画のDVDコピーを作れる。また、インターネットにおけるダウンロードの取り締まりも全くされていない。チュニジア人の中には、日本の漫画・アニメ文化に詳しい人達がいるが、この人達も、日本の漫画やアニメを無料でダウンロードして見ているという。世界中のコンテンツがデジタル化されたお蔭で、チュニジアは様々な情報や娯楽に格安または無料でアクセスが可能なのである。(それにより、日本のファンが増えているもの事実であるが。)そもそも正規の値段における市場が存在しないのだ。ブラックマーケットが表のマーケットになっているというのが現状である。

私は何故このような状況になるのであろうと不思議に思っていたが、その親爺の一言で納得した。『コンテンツの権利を所有しているのは皆“外国人”である。取り締まってもチュニジア人で得する人は誰もいないだろう!?』私は一瞬戸惑ったが、『確かに。う~んなるほど。。』残念ながらその通りである。

実はこの“摘発を行わない”という消極的な政策は、ベンアリ時代における“ポピュリズム”の一環だったのではないかと推測する。政府が予算を一銭も使わず、民衆は、衛星放送やインターネットのコンテンツの娯楽を手に入れたのである。当初はこれに対して政府も歓迎したのではないだろうか。その後、インターネットのサイトの管理はしたという話は聞くが、政府はこのインタ-ネットと衛星放送における“情報の力”というものを過小評価していたのではなかろうか。

以前、革命について研究しているカナダの博士号過程の学生と話をしたことがある。革命が起きる理由は、必ずしも貧困の度合に比例するのでないという。民衆が、自分達の置かれている境遇が、他国と比較して劣っていることを知ることによることが引き金になるという。まさに、このインターネットと衛星放送は、その比較する情報や材料を与えるのに多大な貢献をしたといえよう。

最終的に、このインターネットと衛星放送によってベンアリ政権は崩壊した。なんとも皮肉な結果である。

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