2013年2月3日日曜日

チュニジアの失業問題について


チュニジアに住み始めて、まず感じたことは若者がやたら多いということである。道でも、カフェでも、店でも、近所でもあらゆるところに若者が溢れている。チュニジアの人口(2012年)は約1100万人であるが、CIAWorldFactBookによるとチュニジア人の中央値(2012年)は30歳であるという。日本人の中央値(2012年)は45.4歳であるので、チュニジアの人口が若いことは明白である。

最初の頃は、若い男がカフェで平日の昼間からたむろをして、コーヒーを飲んだり、水パイプを吸って時間を過ごしていることが気になった。その多くは失業者という。何故働こうとしないのか不思議であったが、働こうにも職がないのが実態のようだ。しかも、その多くが高等教育(大学以上)を受けた若者である。チュニジア統計研究所によると2011年の失業者は75万人存在し、失業率は18.9%(男15.4%、女28.2%)である。15歳~24際の若者の失業者は42.4%、高等教育を受けたものは30.5%でという。この統計からも判るように、若い人が職を得られず、社会的にも不安定な構図になっている事がわかる。

実際、ベンアリ政権は教育に注力しており、チュニジアは教育への投資比率が高い。少し古いデータだが、国連人間開発プログラムによると、教育に対する投資はGDP比率で6.4%(2000~2002年)である。(参考までに同時期の日本の比率は3.6%)。基本的にチュニジアの教育は無料であり、高等教育を受ける割合は高い。ERP Policy Reserchによると、2008年時にはその比率は31%である。2011~2012年の間に、公立の高等教育に従事しているものは33.96万人であったが、その61.6%が女性であるという。(上記表参照)

それでは、この高等教育を受けた人をはじめとする、高い失業率の構造的な問題について考えてみたい。

まず最初に、結果と言えばそれまであるが、卒業者を含めて若い人口の急増による労働需要に対して、供給が追いついていない実情を指摘したい。ESC Tunis, URMA – FSEG Tunisの『Determinants of Graduate Unemployment in Tunisia』レポートによれば、2001~2009年の間に、年間平均7.3万人の雇用、全期間で66万人の雇用が創出されたが、89.3%の需要しか満たしていなかったと説明している。

二つ目の理由として、IMFが作成した『Staff Report for the 2012 Article IV Consultation』レポートによると、ベンアリ政権時代のビジネスモデルは付加価値の低い産業、特にスキルが必要としない輸出産業や観光等に注力をしてきたという。ディナールを基にするチュニジアの労働賃金は、賃金交渉や、強硬な管理、時には為替の介入によって抑圧されてきた。この体質が、雇用と労働需要のミスマッチを生んだと指摘している。その結果として、チュニジアの経済は観光セクターや、輸出先において、ヨーロッパ市場に依存せざるを得ない体質になってしまったという。分野の詳細は不明であるが、CIAWorldFactによると、2009年の産業別の雇用は農業18.3%、工業31.9%、サービス49.8%となっている。チュニジアは石油、リン、農業製品、自動車パーツ製造、観光等の一次製品の依存が高い。付加価値の高いサービスや製品にシフトして雇用を創出する事が求められているようである。

実際にチュニジアに来て最初に感じたことは、経済活動における活気が少ないということである。あらゆる産業において市場が開放されておらず、競争を促進していない印象を持った。市場構造においては、独占企業が多く、WTOに加盟する前のベトナムに似ていると思ったほどである。統計的には直接外国投資は伸びているものの、実際にはリーテールにおいてマクドナルドやスターバックスのような外資のファーストフードは存在しないし、スーパーのチェーンはカルフールとモノポリが独占している。マガザン・ジェネラルというチュニジア最大の小型スーパーチェーンのオーナーのタハールベヤヒ氏によると、『革命前はベンアリ政権がカルフールとモノポリに近い関係にあり、競争を行うのに不利な条件であった。』という。ベンアリ政権は市場を開放して消費者や労働者に利益を与えるよりも、ビジネスチャンスの入口を押さえ、自らの利益の拡大にひた走ったのではないだろうか。

最後に、失業率はジェンダーとも関係しているようである。統計(左表参照)を見ると、1980年より女性の失業率は男性のそれよりも超えている。これは女性の高等教育の進出によって、新たな労働市場が生まれたが、それを吸収するような労働市場になっていないことがわかる。

上述したESC Tunisのレポートによると、婚姻している女性は、独身の女性や離婚した女性より失業の比率が高いという。一方で婚姻している男性は独身の男性や婚姻している女性より雇用の比率が高いされている。これは社会的にも、女性、特に婚姻している人に対して雇用の差別が存在するからと指摘している。また、婚姻している男性を雇用する傾向は、即戦力を採用する傾向にあり、日本のようにリクルーター等を通して学生が就職活動が出来るような環境が整っていない事にも起因していると思われる。

失業率を改善する為には、公共セクターによる雇用増大のみならず、プライベートセクターの拡充が必要であるが、当面は外資や外国への輸出に依存せざるを得ないであろう。チュニジアはヨーロッパと目と鼻の先なので多くのビジネスチャンスが存在するはずである。車のパーツや、コールセンターで成功を収めてきたが、港や空港等の物流インフラを拡充して、ヨーロッパ向けにダイレクト・カタログ販売、さらにはアマゾンのようなオンラインサービスのハブを構築することはできないであろうか。また、既に始まっているが、チュニジアの高い医療技術、安価な医療費、豊富な医者を基に、医療観光を推進することも可能であろう。更に、フランス語圏市場向けに、インドのビジネスモデルのように、会計・税務、法律、コンサル、調査等のアウトソースの受け口になれる可能性は十分にある。対外的には、同じフランス語圏である成長著しい西アフリカの社会資本の事業等に打って出るような事は出来ないのだろうか。

その為には市場の開放、外資の受け入れ、競争環境を促進するような体制が必要である。チュニジアは労働人口が若く、教育水準が高い。方向性さえ間違わなければ、成長するポテンシャルが高いと信じている。

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