2013年2月2日土曜日

モロッコに想いを馳せて(スペインより)

今週末からモロッコに出張するはずであったが訪問先の都合で中止となった。今まで私はモロッコには一度も行ったことがないが、実は過去にスペインからフェリーで訪問しようとしたことがある。下記は思い出話である。

1990年、大学一年終わりの春休みであったが、私はバレンシアでホームステイをしながら、スペイン語の語学学校に通っていた。当時のスペインは現在と異なり、EUにも加盟しておらず、ヨーロッパと言えども発展していない頃であった。まだ、バルセロナオリンピック開催の2年前であり、国全体に洗練されていない雰囲気が漂っていた。町を歩いてもじろじろと凝視されるし、レストランで何かを注文している際も『あのアジア人は何を食べているのだろう』とひそひそと噂をされていたのを記憶している。

訪問する以前は、スペインは『太陽が燦々と輝く、明るく情熱的な国』をイメージしていたが、実際に訪問して見ると、そのイメージとは異なる印象を受けた。意外であったが、『影と光』が混在している国であるというのが私の印象である。

至る所であまりにもじろじろ見られるので、日本人に興味があるかと思って近づくと目を背けられたり、話しかけられると困るような表情をされたりした。特に年配の人は、どこか外国人に怯えているのではという印象を持ったほどだ。1975年までフランコによる独裁政治の下で過ごした彼らにとって外国人にオープンに話しかけることなどできなかったのであろう。


少し話しがそれるが、数日前にバルセロナ出身の同僚と『カタルーニャ地方の独立』について議論した際に、フランコ時代における彼の少年期の出来事を教えてくれた。彼は1975年のフランコが死去するまでは自分の本当の名前(カタラン語名)を公の場所で使う事はできなかったという。彼の本当の名前は『マルク』(仮名)であるが、カステジャーノ(スペイン)語風の『マルコ』という名前を戸籍上でも公の場でも強要させられていたという。スペインはつい最近までパブロ・ピカソが描いた『ゲルニカ』の影のイメージを引きずっていたのではないだろうか。   
歴史を振り返ると、スペインは近隣諸国、特にアフリカから影響を受けて“繁栄”と“衰退”を繰り返してきた国である。ヨーロッパに位置しながら、国土回復運動(レコンキスタ)で象徴されるように、北方のキリスト教と南方のイスラム教のせめぎ合いの歴史であった。1492年に起こったイスラム王朝の『グラナダの陥落』と『新大陸発見』は中世が終焉し、近世が開始される歴史転換期の象徴である。この大航海時代によって、スペインの繁栄が始まる。しかしその航海技術はイスラム諸国からもたらされたものであった。

滞在中に、グラナダの『アルハンブラ宮殿』に訪問し、イスラム王朝の800年の栄華に包まれた時に、その雰囲気に引き込まれるような気分になった。そして、この偉大な宮殿建築技術と文化をもたらしたイスラムの国に行きたいという衝動に襲われた。その数日後の出来事である。コルドバまで訪問し、現地で出会った旅行者と食事をしている時に、モロッコの『タンジェ』に行くには、スペイン最南端の『アルヘシラス』からフェリーで数時間で行けることを聞いた。すぐにモロッコに訪問する決意をした。若い頃は後先の事を考えずに、即決即断をするのが常であった。

ちなみに、スペインの定食は昼間でもワインが伴う。しかも、グラスワインどころではなくボトルで提供される。スペイン人と違って日本人の肝臓は弱い。しかし残すのはもったいないとも思い、旅行者と話しをしてるうちに、ボトルを1本空けてしまった。その後も旅行者から薦められるうちに、その人の分も飲み干してしまった。あげくのはてには『白昼からの泥酔状態』である。

しばらくして、千鳥足でコルドバ駅に行き、窓口に聞くと、目的地に行くには夜行列車しかないという。兎に角、酔いを醒まして夜行列車でスペインの最南端行まで行き、モロッコに渡ろうと思った。『ア“リカ”シラスとかいう所まで行ってフェリーに乗ればいいのだ』ということを酔いと戦いながら頭の中で繰り返していた。

夜行列車に乗り、旅行の疲労と酔いの為か直ぐに眠りに着いてしまった。明方の4時位であろうか。起きた際に何か様子がおかしいと思いチケットを見て唖然とした。『アルヘシラス』に行くつもりが、『アリカンテ』と記載されているんではないか。コルドバから南下するところが、北上してしまった。結局、日本に帰国する日が迫っていた為、アフリカに行く機会を失ってしまったのである。

若気の至りといえばそれまでであるが、何ともかっこ悪い話である。それから22年の月日が経った。今週末ようやくモロッコに行けそうであったが、残念ながら今回もお預けである。モロッコへの道程は果てしなく遠い。その日が来るまでは禁酒して待とうと思う。

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